1.オイスターバー
2018年01月31日
勤務先から逃げ出すような気分で帰路についた私は、駅に向かう裏通りを足早に歩いていた。かつて、この通りには居酒屋やバーが立ち並び、店の明かりで華やかだったが、今ではシャッターを降ろした店ばかりになり通りは殺風景で薄暗かった。
数日前まで改装工事を行っていたビルの一階が、「Oyster Bar」という青い電飾看板が光る新しい店に変わっている。「こんな海なし県の、こんな場所で、オイスターバーなんて流行るわけねえよ」と独り言を言いながら、通り過ぎようとしたが、この夏一番だという暑さに負けた。ガラスドア越しに見える涼しそうな店内に青いライトに誘われたのだ。
ドアを開けて中に入ると、ヒンヤリとした冷気が私を包んだ。右手にはカウンター席があり、反対側には四人掛けのテーブルが7つ並んでいる。店内に客は一人もいなかった。
私はカウンターの一番奥に座った。店の一番奥のテーブルの脇には破砕された氷の山があり、その上には沢山の牡蠣の殻が置いてある。飾りのつもりなのだろうが、ゴミの山にも見える。